「……ああ、だから、」

力になってほしい、と目の前の金髪の人は続けた。

背は同じぐらい。歳も、きっと一緒なのだろう。

こんな田舎で金髪というのは目立ってしまいそうだけど、周りには誰もいない。

「な、なんで、武蔵とか伊勢とかじゃなくて『蝦夷(えみし)』の私なんですか……っ、蝦夷なんて分家ですよ、もとは露西亜ですよ……? 武蔵とか伊勢とか上総のほうが力も強いし、直系だしですよ?」

「ああうん、そこらへんはいいんだよ、地元贔屓地元贔屓」

意外にも普通にここが地元だったらしい、金髪碧眼の少年、ソルフィアさんが手をひらひらさせながら言った。

「それに、ほら、そこまでの力は必要ないし。蝦夷の君で十分だよ」

青い瞳で、じっと見てくる。

「……あの」

「何?」

「その世界に行けば、夏奈ちゃんは死なずに済んだりしますか」

「……可能性はあるね。必ずじゃない。寿命が一日伸びるとか、その程度かもしれないし、むしろ縮んじゃうかもだけど」

「それでも、いいです」

連れて行って下さい、と言い切ると、気付けば私は知らない町にいた。

 

 

私がいなくなっても、夏奈ちゃんはあれから三カ月遅くではあったけど、死ぬことにかわりはなかった。私がいなくなっても、かわりの入梅がいる。代わりの蝦夷がいる。夏奈ちゃんの一族は私ではなく入梅を守る一族だ。私がいなくなっても、関係なかったのだ。

「……蝦夷さん、どうかしました?」

こっちに来てからのパートナー、卯月が心配そうに私の顔を覗き込む。

過去の私……と言っても多分近江だろうけど、が封印した、植物の生長を促す能力を持つ子。私が封印を解いた子。今では私と一緒に、この世界の食糧面をサポートしている。

「うん、いや、前の夏奈ちゃん一周忌だなーって思って」

「それはそれは……ですね」

「夏奈ちゃんを二回も殺しちゃったなーって思って」

「……最初から、入梅なんていなければ、カナさんが死ぬことも無かったし、私もこんな目にはあわなかった、みたいなことを言いたいんですか?」

「……そういうんじゃ、ないよ」

「私は、あなたに会えて嬉しかったですよ」

目の前から離れ、隣に座ってから卯月は続ける。

「あなたが封印を解いてくれなければ、わたしは一生、生きることも死ぬこともないままでした。ずっとずっと一人ぼっちで、いや、一人ぼっちと認識することは出来ないんですけど、それでも、その、」

何を言いたいのか分からなくなったのか、ええと、だとかその、だとかと続けて。

「私は嬉しかったんです」

「……そう」

「確かに、カナさんは死ななかったかも知れませんけど。多分、後悔はしてないんだと思いますよ。思っておきましょう。死人が気にしないなら、生きてる側が気にするだなんてただの迷惑です、て、いつぞやの……入梅さん。入梅、近江さんが言ってました」

「ご先祖さんが言ってたんじゃ、聞くしかないねえ」

「別に、毎日毎日枕元にカナさんがいたりとか、そういうわけじゃないんでしょう? 気にしなくていいと思いますよ。そもそも入梅さんをかばって死んだんです、入梅さんの笑顔が一番嬉しいはずです」

「……そっか」

ぴいいい、と携帯がなる。

はあい、と卯月が出て、ジェスチャーで仕事だ、と伝えてきた。

私がこっちに来たことで、夏奈ちゃんは三カ月も長く生きることができた。卯月の時間を再び動かすことができた。この世界の人たちの生活を、少しだけ支えることができた。それでいいのだ。

 

それでいいのだ、多分。