私、朝里朝季(あさりさき)っ! 市立幌北小学校に通っている小学四年生!

 好きな教科は理科、苦手な教科は算数かなっ。

 好きな本は「プリティ☆ココナ」! 魔法少女のココナが街を守るため、街に現れる魔物や、ときには他の魔法少女と戦うの!

 

 なんて語っている場合じゃないのでした。

 私は今、普通に登校してきたはずなのですが、なんか学校の中が変です。なんか静かです。おかしいですよ、下駄箱には普通に靴が入っていたのに、なのに……。

 なんとなく、怖くて教室の中はのぞけずに、二階へ上がり、自分の教室のドアの前に立ちます。一、二呼吸置いて……決心してから、私は恐る恐る、ドアを開けました。

 教室の様子を確認します。

 なるほど、静かなわけです。

 皆、寝ていました。眠っていました。

 机に突っ伏すように。床に崩れるように。皆それぞれ眠っています。

 そして、皆の頭の上に、いろんな色の光の球が浮いていました。

 ありえないです。ありえないよ、こんなの。

 こつん、と足音がしました。そっちに目を向けると……女の子がいました。金色の、ふわふわした腰ぐらいまである髪。二重の青い目。すこし、外人さんっぽい顔をしています。

 その子は光の球を次々と手に取ると、胸元に近づけました。光の球は、すうぅっと胸元に消えてゆきます。

 さすがに気がついたのか、女の子はこちらを向きました。

「……遅いな、小娘」

 かつん、と靴を鳴らし、……えと、ものすごく偉そうなポーズをとります。腰に手を当てています。体重を片足にかけています。身長はそこまで変わらない気がするのですが、小娘と言われてしまいました。しかも偉そうです。

 私が何も言わずに黙っていると、また女の子が口を開きました。

「まあよい、奪うだけだ」

 かつん、かつんと女の子が近づいてきます。

 近づいてくる人に、正直に捕まる人なんているのでしょうか。

 ましてや、こんな怪しさ満点な人に。

 いるわけないと私は思うのです。私はランドセルをやや投げ捨てるように廊下に置いて、急いで階段に向かいました。

 二階から、三階へ。一生懸命、走ります。走るのだけは得意です。こう見えて四年連続リレーの選手ですし。

「止まれ、小娘っ」

 女の子は追いかけてきます。ときどき、私の横を何かが飛んでいきます。

 危ないじゃないですか、人に何か投げつけちゃいけないんですよ……って、今はそんな場合じゃありません。

 基本的に、何も考えない私です。

 もうちょっと後先考えて行動しなさいといろんな人に言われる私です。

 三階につき、左に曲がればまだ逃げられるのに、私は右に曲がりました。行き止まりです。あるのは図書室ぐらいです。でも仕方ありません。私は扉を開け、入り、乱暴に閉め、カウンターの陰に隠れました。

 本当に、どういうことなのでしょうか。「プリティ☆ココナ」じゃあるまいし、こんなことあるわけないのです。

「ココナがいたらなあ……」

 本気でそう思えてきます。末期です。

 かつん、かつんという音が近づいてきます。走るのは諦めたのでしょう。私がここにいるのは明らかですし、彼女にはさっきの謎の攻撃があるのですから。

「こんな所に逃げ込んだのか、阿呆なのか?」

 ついにやってきました。ピンチです。何がどうピンチなのか一切まったく把握し切れていませんが、ピンチです。

「っ……」

 あれ、テーブルの下で何かが光っています。

 これは……何でしょう。

 大雑把にいうと五角形のかたちをした、アセロラジュースのような、赤系統の、透き通った色の宝石のようなものです。

 よく見てみると、ココナの第三巻の敵、トキアの魔法結晶によく似ています。

 なぜ、こんなものがここに。

 ココナはグッツ化していなかったはずです。

 そっと、触れてみます。

 …………。……っ。

「?」

 

 

 

 目の前がぱっと輝き、気付けば私の右手の爪がアセロラ色になっていました。右手の甲に、さっきの石がはまっています。ものすごく、変な感じです。体が、勝手に動き出します。

 図書室の備品である固形の蛍光ペンをペン立てからとって、スッと撫でます。すると蛍光ペンの色はピンクと赤の中間の色になりました。

 そのまま私の手は床に『Me_Ps_Wi_Ar_Sp』と書きなぐりました。自分でも意味は分かりませんが、手が勝手に動きます。

 うむ。なんだか、よく似たものを見たことがある気がします。

 ……固形の蛍光ペン。何かと、共通している気がします。クレヨン? チョーク?

 なるほど。これは、おそらく、ココナ第六巻で敵を裏切り、ココナの見方になったキャリスの魔法です。彼女の魔法は空間、または対象に文字を書くことで火の玉を飛ばしたりなんだりするものでした。

 じゃあ。

 さっきまで私を追いかけてきていたあの女の子は、びっくりした顔で私を見ていました。

『En_Win_Fr』……今度は空中へ。

 そして私はカウンターを飛び出すと、窓へ向かい、鍵を開けて、急いで窓から飛び降りました。

「……しまっ、目覚っ」

 何かが少し聞こえたような気がしますが、きっと気のせいでしょう。

 

 

 

 

 着地の仕方等々全く考えていなかったのですが、そこら辺はさすが魔法(仮)です。丁度いいタイミングで翼が消えました。

「待てぃ、小娘っ」

 三階の窓から、追いかけるように女の子が飛び降りてきました。

 いろんな色の小さな光の球を連れて。

 女の子が手を動かすと、それに合わせて光の球がこっちに飛んできます。

 まっすぐこっちにくるものもあれば、視界を奪うのが目的なのか、まわりにあててくるものもあります。それを私は……私の体は、勝手に判断して、空中に何かを書きなぐり、対処していきます。

「待たないですよ。あなたは私たちの学校で何をしていたんですか」

 そう言いつつも防ぐほかは私は何もしません。

「才能を奪ったんだ。この世界を守るためにな」

 女の子が勢いよく腕を上げると、水色系の光の球がいくつか女の子の頭の上に集まって、次に瞬間には氷の矢になって、私のもとに飛んできます。

『Snd_Sld_Df』

 でもその矢がこっちに来ることはありません。

「どういうことですか、才能を奪うって」

「お前みたいな子が生まれない様にだ」

「だからどういうことなんですかっ」

『Fi_Ba_F』

 相変わらず、私の体は勝手に動き続けます。勝手に攻撃したり守ってくれたり、まあありがたいといえばありがたいのですが。うぅ。

「過度な才能は争いの元」女の子は私を睨みつけます。

「だから奪う」

 女の子は校舎のほうに手を向けます。ぐっと手を握ると、そのことで引っ張られたかのように……たくさんの光の球が女の子の周りに集まりだします。さっきまで使っていたものとは違い、さっきより一回り大きいものです。

 あれは……さっき、みんなのところに浮いていたものなのでしょう。

「返して」

 私は叫びます。叫ぶだけです。よく分からない力を手に入れたところで、あれは壊していいものなのかどうかわからないのですから。

もし、壊して、何かあったら、と考えたら何もできません。

「言うだけなら誰にでもできるぞ、小娘」

 女の子はつまらなそうな顔をしながらこつん、とつま先で地面を叩きます。

 とたんにひびが入る地面。だん、と大きな音が響きます。そんな攻撃方法が。

 それなら私も、と私の体が勝手に動き、『Rt_Gr』と書き殴ります。

 女の子は一瞬驚いたようですが、すぐににやりと笑いました。

「本当に面白いな、その才能は」「奪いがいがありそうだ」

 

 どごおん、とすごい音がして、気がつくと、女の子はどこにもいませんでした。

「……え、」

 さっきまでの様子が嘘だったかのように、何もありませんでした。そこら辺を歩いている人もいますし、鳥も飛んでいます。ギリギリに学校に来る子たちが、間に合うのは分かっているのかゆっくり歩いていますし、普段速い子たちが焦って走っています。

「そうだ、魔法……」

 右手を見てみると、やっぱり、赤い石が手の甲に埋まったままでした。

 確か、こんな時は。

「りりーす」

 そう呟くと、手の甲の石がぱっと消えて、首元に現れました。どうやらネックレスのような形をしているようです。

さすがにこういうのを付けてくるのは先生に怒られてしまうので、服の中にしまってから学校の中に急いで入りました。

 もう少しでチャイムも鳴ってしまします。

 よく考えてみれば上靴のままでしたが、まあ問題ないでしょう。グランドで少し暴れた程度です。軽くつま先を床にとんとんとして砂を軽く落としてから、学校の中に入ります。     

 見られていたのか、「朝季ちゃん駄目なんだー」とかそんな感じの声が後ろから聞こえるけどまあそんなことを気にするような私ではありません。急いで階段を上って、鞄を……は無かったので誰かが拾ってくれたのでしょう、そのまま教室に入ります。

「おはよーっ」

「あ、おはよう朝季!」

「朝季鞄どうしたの? そこらへんに転がってたからとりあえず入れといたいけど」

「ありがとー。なんか急に外に出たい衝動に襲われて」

「なにそれー」

 ははは、と皆が笑う。

「そうそう朝季、朝季はなんか変な感じする?」

「……変な感じ?」

「そうそう。みんな、何か忘れてるような、でもそのおかげですっきりしてるよなって……自分でも、変なこと言ってるって分かってるんだけど、その通りなんだよね……」

 もしかして、あの女の子は、本当に。この子たちの才能を奪ったんじゃないかって。才能とまでは行かなくても、その前の段階の、観察力とか、そういうのを奪ったんじゃないかって、

 その時、やっとわかったのでした。

 

 

 

「は? 魔法? どうしたのサキ姉。マンガの読みすぎ? 妄想と現実の区別がつけられない若者的なあれなの? そうなのお姉ちゃん?」

 家に帰って、妹に話してみたけど、なんというか予想通りの反応でした。

 これが私の妹、サヤ。お母さんたちは何を思ったのでしょうか、朝夜でサヤと読む、少し変なお名前です。私の名前も朝里朝季って十分変だと思うのですががこの子には負けてしまいます。

 体が弱くて、今は比較的症状が軽いからこういう反応が返ってきたのでしょう。普段はすんごくだるそうで学校に来ないのです。

「いや違うよ? ほらここにちゃんと……」

 そんな妹に、私はアセロラ色の石を見せます。

 サヤはその石を手に取ると、軽く投げてみたり、光に透かしてみたりしています。蹴ろうとしたので流石にそれは止めましたけど。

「ただの石にしか見えないけどなあ……どこで盗んできたの?」

「盗んでないよ……」

 もう、サヤに見せたのが間違いでした。サヤの手から石を取り戻して、首にかけます。

「朝季ー、ちょっと」

「ほらサキ姉呼ばれてるよ」

「分かってるよ」

 石を服の中に戻してから部屋から出て、声のした方……おそらく居間でしょう。そこに向かいます。どうしたの、と部屋に入ると、お母さんと……知らない女の人がいました。

「……お母さん? その人は?」

 腰辺りまである黒い髪を、ぱっつんと切りそろえた髪形。目も黒くて、まっ黒けっけな感じがします。多分、高校生なのでしょう。あまりみないセーラー服を着ています。

「親戚の人。サキは初めてだよね。お母さん、これから出かけるから、この人の言うこと聞くんだよってサヤにも」

 女の人はにこりと笑って。

「私立高城高校一年生、佐田です。朝季ちゃん、よろしくね?」

 見た目通りの、大人っぽい声。わざわざしゃがんで、私に視線を合わせています。

「はあ……」

「じゃあ朝季、お母さん行くからねー」

「待ってちょっとお母さん早くない?」

 バタン、と言い終わらないうちにもう出かけてしまいます。さすが私たちに朝季と朝夜だなんて名付けただけあるというかなんというか。

「今日はよろしくお願いしますね、朝季ちゃん」

「はい、よろしくお願いします……?」

 まだご飯を食べるには早い。何かすることがないかとまわりを見ています。そして、その目は私の首元で止まって。

「朝季ちゃんこれ何つけてるの? 見せてー」

「っ?」

 ふっと私の首にかけていた石をとって、眺めます。

「おー、なかなかいいね、これ。朝季ちゃんこれどうやって手に入れたの?」

「拾ったんですよ」

「へえ、そうなんだー」

 そう佐田さんが呟いた、そのとき。急に右腕に激痛が走りました。一瞬で、本当に痛かったのかもわからないぐらいなのですが、多分、確かに。

「そっかあ、カズナちゃん、失敗してたのかあ……残念だなあ、期待してたのに……これはカズナちゃんのとは違うし、多分能力の結果だから、これ取り上げても意味ないんだろうし、本当、どうしようかな、よし、じゃあ、」

 

 気付けば私はグラウンドにいました。佐田さんはどこに行ったのやら、目の前から消えて、その代わりに朝の女の子がいます。

 それはさすがに、向こうも驚いているようで、何も情報を読み込めていない感じですが、しばらくして何か気付いたのか。

「まあよい、奪うだけだ」

「朝の続きからなんですかっ?」

 急いであの石を取り出……ってあの人に取られたから無かったです。

 あれ、石って遠距離からでも展開できるものでしたっけ。試せるだけ試してみましょう。分かりやすいよう、右手を見ながら。

「すたーと、あっぷ」

 一瞬で装着というか展開というか、しささりました。

「よくわかんないんですけどっ、才能を奪うとか、よくないと思うので、止めますっ」

 びっとさっき同時に現れた固形マーカーを向けると、女の子はにやりと笑いました。

「止めれるものなら止めてみろ」

 女の子が手を上げると、光の球が集まってきました。手を動かすと、それに従って光の球がこっちに飛んできます。

『Df_Sn』

 

 ちょっと待った。何か、おかしいような。

 ……ああ、そうか。

 そうだ。

 

「何で」

 ?

「あなたは、違うんですか」

「何がだ」

 なんだこの子は意味がわからんと不満そうな顔でこっちを見てきます。

「あなたのそのへんな魔法はなんなんですか、才能じゃないんですか、なんであなたは存在していいんですか」

「知るか」

 少しも考える様子もなく、すぐにそう返ってきます。

 当たり前だ、とでも言うように。堂々とそこに立っています。

 ……っ、

『Fi_Fr_Ba_Avd_Ba』

「ココナは! ココナでは、すべての始まりは魔法少女の存在を許してしまったことでした。セルフィア・ソルフィアという存在が許されてしまったことでした。セルフィアは創りだす魔法少女でした。彼女が奇跡的に生まれてしまったことで、セルフィアは魔法少女が許される世界を創造してしまいました。そのあと、自分が作り出した存在で死んでしまうんですけど、その魂を引き継いだのがココナで」

「そうか、私も本はよく読むよ」

 無理矢理そこで私の言葉を切るように、女の子が呟きます。

「夏目漱石や源氏物語も読むし、雑誌も読む。漫画を差別する人間ではないし、普通に緑の鳥文庫や翼文庫なんかの児童文学もよく読む」

 ……?

「でも、そんなもの、見たことも聞いたこともないな」

「え」

 そんな。そんなことはないはずです。ちゃんと今まで私、読んできたんですよ? 本屋さんで買ってきていたんですよ?

『Cm_He』

 そう書きなぐると、そこら辺を飛んでいた鳥が急に飛ぶ方向を変えて校舎へと向かって行きました。私がさっき飛び降りた窓から入り、しばらくして、本をくわえて帰ってきます。表紙にはかわいい女の子の絵、「魔法少女プリティ☆ココナ7」とちゃんとタイトルもはいっています。

「ほ、ほらっ、やっぱりあるんじゃないですか、ほんとおかしいですよ?」

 女の子は、少し驚いた後、ああ、本当に駄目だ、という顔をして。

「何を言っている、小娘」

 哀れむような目で。

「白紙だぞ。逆に珍しい」

 

 

 ばちん、と。何かが砕けたような、壊れたような、そんな気がしました。

 自分の、手元に目を落とします。

 さっきまでの、ココナの本ではありませんでした。

 表紙は、普通の文庫本のカバーをはいだような、ただの茶色い紙でした。中身も、何も書いていない、白紙でした。いつだか、本屋さんで見たことがあります。メモ帳として売られていました。メモ帳の割には書きにくそうだな、と思ったのを覚えています。

 ……そんな。

 じゃあ、あの、お母さんの目は。陽菜ちゃんの目は。怜君の目は。光ちゃんの目は。悠馬君の、微妙な目は。

 有りもしないものを嬉々として語る、私への差別の入り混じった目だったのでしょう。そんなもの、存在しないと言ってくれた人もいるのかもしれません。微妙な、どころではなかったのかもしれません。

 それでも、私は。

 ずっと、ずっと、ずっと、信じてきたのでしょう。

「……あなたが、奪おうとしたのは、こういうこと、なんです、か」

「……ああ」

「私が、こうやって、現実を歪めて見ることがなければ、私がこうなることもなかったんですか」

「ああ」

「こうなってから追いかけてきたのも、すぐなら間に合うかもしれないってことですか」

 

 

 そうした時です。いきなり女の子の右の手首が光りだしました。女の子も予想外だったのか、驚いた顔で攻撃しようとして手を挙げている最中だったのを途中でとめています。

 ただの光だったものが、一度消えたかと思うと、今度は手首を中心に魔法陣のようにくっきりとした光になりました。

 同時に女の子の周りに浮いていた光の球が、ゆっくりと女の子から離れ、校舎へと向かっていきます。いったい何が。

「……っ、何をするっ」

 見開かれていた目が元に戻り、私をじっと見つめます。……いや、これは私ではなく、後ろの。

「コーカッ」

 振り返ってみると、さっきの、高校生ぐらいの女の人がいました。

 この人が、この状況を?

 ……っていうか、コーカって。名前なのでしょうか。漢字が全然想像できません。校歌? 硬貨? いやいや、人の名前ですし。多分。

「何やってるの、カズナちゃん。そんなことさせるためにあげたんじゃないよ?」

 いざ喋ってみると、さっきまでの大人っぽさはありませんでした。

 いや、ありますよ? あるんですよ。でも一周まわって子供っぽいというかなんというか。大人にならないままの子供というか。一応、見た目と合ってはいるんですけど、違和感を感じます。

「そう呼ぶなと言っただろう、私にはセ」

「カズナちゃん」

 こんどはカズナ。何なのでしょう。とりあえず私を挟んで会話されるのは不愉快なので、少し横に移動します。

「……っ、急になんだ、余計な手出しをして」

「よけーな手出しはカズナちゃんのほーだよ? 私は全部奪ってって言ったのに、どうしてこんなことになってるのかな?」

「だから逃したから捕まえようと、というかそっちがそうしたのだろう」

「私たちみたいのは私たちだけで十分でしょう? カズナちゃんそういう力持ってるんだしさあ、さっさと奪っちゃえばいいのに。カズナちゃんが逃しちゃうだなんて、そんなの有りえないよ」

「だからっ」

「あ、わかった、分かっちゃったよカズナちゃんっ。つまりカズナちゃんはお友達が欲しかったんだねっ」

「はっ?」

「そっかあ、カズナちゃんもそんな年になったんだねえ、私は嬉しいよ。嬉しくないけどね。すごく嬉しいよ。お母さんとしてね。年上としてね。でもサダコーカとしては嬉しくないかな。だって可愛い可愛いカズナちゃんが私以外にも友達が欲しいって言いだしたんだもの。私悲しいなあ、カズナちゃんはそんな子だとは思わなかったなあ、酷いなあ……あのときカズナちゃんの手を取ってあげたのは誰だったの? 私だよ? サダコーカだよ? 遡ること十世紀、生まれてきたカズナちゃんの隣にずっといたのは誰だったの? 私だよ? サダコーカだよ? 私はカズナちゃんのお母さんよりもお父さんよりも長くカズナちゃんのとなりにいるんだよ? というかそもそも私がカズナちゃんを作ったといっても過言じゃないわけだしね。というか私がカズナちゃんを作ったんだよね。カズナちゃんは私のものだよね。そうだよね。うんうん、わかってるよ。カズナちゃんいずまいんだよね。あっ、その点『Be_Qit』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                        」

 

 やっとおかしく思ったのか、女の人はようやく口を閉じて、こっちに視線を移します。

「            」

 なにか言いました。聞こえませんけど。仕方がないので、さっき書いた文字の上に横線を引き、魔法を取り消します。

「……れえ、ひどいな、朝里朝季ちゃん。ずっと聞いてなかったの?」

「わざわざフルネームで呼ばないでくださいよ、ってかそれだと私の名前が変なのわかってますよね?」

「うーん? とりあえず友達だもん、名乗っとくね? 佐田香花、でサダコウカ、です」

「ずいぶんと変なお名前ですね、サダカカさんですか」

「はは、もう、カズナちゃんみたいなこと言わないでよ。それより君の妹さんのほうが変じゃない?」

 ……妹?

「朝里朝夜でアサリサヤちゃんだっけ? 君も名前に朝って二回も出てくるしちょっと無茶だよなあって思ってたけど、朝夜って……ね? そのせいで引きこもっちゃって、かわいそうに」

「朝夜は引きこもってなんかいません」

「あら。どうしたの?」

「体が、ちょっと弱いだけです」

「そう。じゃあ治せば許してもらえるかな?」

「え」

 女の人はにっこり微笑むと、グランドの外、草があるほうへ歩いていきます。

「何を、」

「うん、丁度いいぐらいの犠牲かな」

 そんな感じのことを呟いて……タンポポをぶちっとちぎり、胸元へ持って行きました。

『     』

 

 女の人を中心に、草が消えていきます。あくまで草だけ、キノコや木は残して、緑が消え、そのあとから浮かび上がった光が女の人の所に集まります。

 ぱちん、と両手を合わせると、女の人の足元に見覚えのある魔法陣が浮かび上がりました。ああ、さっきの女の子のあれはこの人が。

「ひーるっ」

 

 ばさあ、と、女の人を中心に風が吹いた気がしました。

 それからにこり、と笑って。

「残った力は朝季ちゃんに」

 なんだか、力が湧いてきて。

「りりーす」

 私の手の周りと首のあたりに魔法陣が現れます。

 ぽんっ、と音がしそうな感じで、私の手の石が首元に返ってきました。

「カズナちゃんが、はじまり。才能を奪う才能なんかに目覚めるから、才能を持った人間が生まれてしまった」

 佐田さんは、落ち着いた声で続けます。

「私はそのひとり。というか、ちゃんと発現した、今のところ朝季ちゃんを抜けば唯一の例。私は、はじまりの魔法少女。あなたが思っているのとは違うと思うけど、とりあえず、はじまりの魔法少女がいる以上、次の魔法少女もいる。それが、朝季ちゃんだった」

 佐田さんが、私に近づいてきます。

「だから私は責任を取らなくちゃいけない。カズナちゃんは、これ以上自分のせいで、発現する人を、出来るだけなくさなきゃいけない。だから、奪ってって言ったし、奪わないとだめだった。カズナちゃんはもうこれ以上できないし、それっぽいことしかできないんだけど」

 佐田さんは、祈るように、手を合わせて。

「朝季ちゃんが、元の女の子に戻れますように」

 

 さっきより、遠くの草が無くなっていく。佐田さんの周りに光が集まってきて、それが私の周りに移動して。

 

「……どう?」

「なんか……変、ではないんですけど、前に戻った、みたいな」

「うん、そういう魔法だもの」

「これで、お別れですか?」

「そう。じゃあ、これ以上縁がないことを願うわ」

「はい」

 

                                 。